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啓太がゆく・第3部(警視庁の記者時代)(40)

 投稿者:矢嶋武弘  投稿日:2018年12月16日(日)04時09分19秒
  そして、6日の日曜日、啓太はアパートから直接 御茶ノ水方面へ向かった。時間があったので神保町の古本屋に寄ったり、近くのラーメン店で食事を済ませたあと、神田駿河台の明治大学界隈をぶらついた。
この明治大学も学費値上げの決定に端を発して、大規模な学園紛争が起きている最中だった。啓太も取材で2~3度来たことがあるが、三派全学連の重要な拠点であり学生の活動家も多い。彼は大学周辺の様子を見ながら、御茶ノ水駅の方へ歩いていった。
すると、喫茶店『S』はすぐに見つかった。午後1時前だったが、店内に入ると白鳥京子はすでに来ている。
「やあ、お待たせ。今日はよろしく」
啓太はドギマギしたが、あえて気安く挨拶すると京子の方も笑顔で彼を迎えた。彼女は明るい水色のツーピース姿で、仕事を離れリラックスした態度に見える。2人は打ち解けた感じで話し始めたが、啓太は相変わらず緊張感に縛られていた。
しかし、京子の方が落ち着いて和やかな雰囲気だったため、次第に彼女に慣らされて緊張が解けてきたのである。
「京子さんはこの辺をよく知っているんだね」
「ええ、高校の時から御茶ノ水はよく来ました。知っている店も何軒かありますよ」
「そうか、あとで散歩をしてもいいね」
そんな話をしているうちに、啓太はだんだん得意になって仕事関係の話題を口にした。
「この前、御茶ノ水を中心に“カルチエ・ラタン闘争”があったのには驚いたな。明治や中央大学の学生が積極的にリードしたようだが、あれは新しい闘争方式ですよ。これからまた、ああいう抗議行動が起きると思うな」
啓太が言ったカルチエ・ラタンとはフランスのパリにある地名で、5カ月ほど前にそこを中心に大規模な反政府抗議行動、ベトナム反戦運動が繰り広げられたのだ。過激派の学生はそれを見習って“神田カルチエ・ラタン闘争”を起こしたのである。
「ええ、あれにはびっくりしましたね。最後は機動隊に鎮圧されましたが、路上をバリケード封鎖するなんてこれまでになかったことでしょう。あとで聞きましたが、まるで“市街戦”のようだと地元の人は言っていました」
「京子さんもあとで取材したの?」
「ええ、神田界隈の取材の仕事が入ったんです」
共通の話題になったので、啓太はすっかり気分を良くした。話を聞いていると、京子は身近な生活のことから時事問題まで何でも取材するようだ。それが『女性の未来社』の編集方針なのだろう。
2人はなおも雑談に花を咲かせていたが、啓太が交際の記念にケネディ・メダルを贈りたいと言うと、京子はこころよく受け取ってくれた。
「ケネディ大統領を尊敬しているのですか?」
「うん、まあ・・・好きなんだな」
啓太が生返事をすると、京子はおかしそうに笑った。
2時間ほど喫茶店『S』にいたあと、2人は御茶ノ水周辺を散歩することになった。夜になれば京子をスナック・バーか居酒屋にでも誘うのだが、啓太はそれを諦め1時間近く彼女の行きたい所について行った。
そして、御茶ノ水駅で別れ際に彼は京子に言った。
「今度ぜひ、霞が関ビルで食事をしましょう。いいですか」
啓太の誘いに彼女は素直にうなずいたのである。(続く)
 
 

啓太がゆく・第3部(警視庁の記者時代)(39)

 投稿者:矢嶋武弘  投稿日:2018年12月13日(木)10時39分50秒
編集済
  やがて啓太は27歳になった。母の久乃が簡単なお祝いをするからと電話をかけてきたが、浦和に帰るヒマはないと言って彼は断わった。浦和へは“洗濯もの”を持って帰るだけだ。とにかく忙しかったのである。そうは言っても、啓太は白鳥京子のことが忘れられなかった。
9月下旬の金曜日、例の英会話レッスンの日が来た。外国語学院の塚本講師はFUJIテレビ見学に4人の女子生徒を連れて来たが、レッスンが始まる前に彼女らを啓太たちに紹介した。いずれも可愛い盛りの生徒さんだったが、啓太は京子のことが気になっていたのでほとんど関心を示さなかった。反対に、坂井は彼女らにけっこう惹かれたようだ。
「なかなか綺麗で可愛い子がそろっていたね。こんど塚本さんに話してみるかな」
坂井がこう話しかけてきたが、啓太は無言で返事をしなかった。

それから数日後の10月初旬に、彼は思い切って京子に電話をかけることにした。デートの場所は京子の都合の良い所で、時間にこだわらず食事でもお茶でも構わないではないか。
啓太はしばらく逡巡していたが、霞が関の公衆電話から『女性の未来社』に電話を入れた。すると、運良く京子が電話口に出たのである。彼は少しドギマギしたが、平静を装って率直に話しかけた。
「木内さんはもう退社したのでしょうか・・・」
木内典子を“出し”に使った感じだが、彼女は予定どおり9月末に退職していた。しばらく典子の話をしたあと、啓太は京子にデートを申し入れた。もちろん、場所や日時は彼女の都合に合わせるつもりだ。すると、京子は6日の日曜日が良いと答えた。
「場所はどうします? あなたの好きな所でいいですよ」
啓太がそう言うと彼女はしばらく考えていたが、やがて国鉄・御茶ノ水駅のすぐ近くにある喫茶店『S』を指定した。彼にはむろん異論がないので、6日の午後1時にそこでデートすることを決めたのである。
電話を切ったあと、啓太は嬉しくて仕方がなかった。彼は“記念”に何かを京子に贈りたいと思ったが、差し当たりこれといったものがない。高価なものはもちろん無理だし、だからと言って何も贈らないというのは・・・
すると、ふと昨年 坂井と沖縄旅行をした際に手に入れた“ケネディ・メダル”を思い出した。表にケネディ大統領の肖像をあしらったメダルだが、浦和の実家に大切にしまってある。啓太はこれだと思いついて、夜だったが急いで浦和に帰宅した。
「どうしたの? 急に帰って来たりして」
「いや、あした会社に届けなければならないものがあるんだ」
久乃がいぶかしそうに尋ねるので、啓太は適当に答えた。彼はケネデイ・メダルや見せかけの物などを持って、その晩、あたふたと田端のアパートに戻ったのである。(続く)
 

12月11日(火)

 投稿者:矢嶋武弘  投稿日:2018年12月11日(火)16時09分18秒
編集済
  午前中、病院で定期的な診察、特に異常はなし。薬局で薬をもらって帰ったが、相当に混んでいた。次は3月中旬に。脳神経外科の患者は年寄りばっかりだ(笑)。
スマホをいじり回していたら故障したので、昨日は娘の家に行って直してもらった。どうやら“フリーズ”になったのか。その場合は電源を一旦切るそうだが、よく分からなかった。それはともかく、娘の所で孫に会えて妻も大喜び、スマホは人を結びつける役割があるようだ。
フランスの反政府デモは拡大の方向、マクロン大統領は最低賃金の引き上げ発表などで鎮静化に必死だ。
このところ、FBにシリアなどの米軍女性兵士から相次いで連絡があり変だと思う。一部は友だち登録したが、あとは様子見だ。
 

啓太がゆく・第3部(警視庁の記者時代)(38)

 投稿者:矢嶋武弘  投稿日:2018年12月 9日(日)10時38分52秒
  それから暫くして、日本大学では経済学部のバリケード封鎖を解除するため出動した機動隊員の1人が、屋上から学生が落とした大きなコンクリート片を頭部に受けて死亡するという事件が起きた。これによって、日大紛争はいっそう苛烈な様相を呈してきたのである。
啓太と先輩の池永は毎日、夕方になると警視庁警備部の部屋を訪れた。
「明日の警備出動の予定はどうですか?」
担当の課長補佐に聞くと、彼はやんわりと2、3の大学の名前を教えてくれる。そこで池永と啓太は翌日の取材場所を決めるのだが、そういう日が連日続いた。
「まるで“御用聞き”みたいだな」
池永が少し自嘲気味に言うので、啓太は苦笑いした。この当時、大学紛争は都内で100校前後に増え、授業放棄のストライキや校舎のバリケード封鎖が相次いだ。新左翼の学生たちの行動はますます過激になり、毎日のように機動隊が出動して彼らと衝突したのだ。
ヘルメット姿の学生たちは鉄パイプや角材などを持ち、火炎ビンや石、コンクリート片を投げて抵抗する。一方、機動隊はジュラルミン製の楯や警棒、ネットなどで武装し、時を見て催涙ガス弾を打ち込んだりする。校舎の“支配権”をめぐって激しい攻防戦が繰り広げられた。
取材をする記者やカメラマンは必ずヘルメットをかぶり、催涙ガスの被害を少しでも和らげるために目薬をいつも持っていた。催涙ガスをかぶると、涙やくしゃみ、咳などが出る。目はもちろん痛くなるが、ガスをいつも浴びていると涙も枯渇して仕舞いには出なくなるほどだ。

こうした苛烈な仕事をしていると、どうしても安らぎや慰めを求めるようになる。記者クラブではよく花札の“こいこい”をやった。また、将棋盤を持ってきて回り将棋や“金コロ”というゲームもやった。金コロは駒の「金将」を逆さに立てる遊びで、これがなかなか難しい。縦や横にはすぐに立つが、逆さには滅多に立たないのだ。
啓太は記者クラブにいる間にほぼ完全にマージャンを覚えた。他局の記者らとやるのだが、もちろん“賭け事”である。警視庁の広報はこれを大目に見てくれた。(当時は女性記者が1人もいなかったので、男性天国のルーズと言おうか極めて開放的な記者クラブだった。)
ある時、啓太は役満の中でも最高級の“大三元”を達成したことがある。その時は思わず喜びのあまり「やった~!」と歓声を上げた。
「おいおい、あまり大きな声を出すなよ」
草刈キャップが見かねて、啓太に注意したほどだ。
こうして記者クラブ(警視庁ニュース記者会)の遊びごとには事欠かなかったが、泊まり勤務の時などは、民放テレビ4社の若者たちが部屋の大型テレビを見て楽しむなど、和気あいあいとした雰囲気に包まれていた。(続く)
 

啓太がゆく・第3部(警視庁の記者時代)(37)

 投稿者:矢嶋武弘  投稿日:2018年12月 5日(水)11時40分8秒
  「だから、今年は特に厄介で忙しいのです。ところで、白鳥さんは東京にお住まいですか?」
啓太がまた話題を変えて京子にいろいろ聞いた。彼女は東京・杉並の井荻(いおぎ)に住んでいるそうで、大学はOCYANOMIZU(お茶の水)女子大卒で、前にも言ったが、4歳年上の兄がASAHI新聞の社会部記者だという。
「そうですか、白鳥さんは優秀なんだな。将来は何を目指しているのですか? このまま出版社に勤めているとか・・・」
「いえ、先のことは分かりません。今はただ『女性の未来社』のことで精一杯です」
啓太の質問に京子は素直に答えたが、横から典子が口を挟んだ。
「京子さんは未来の“編集長”ですよ。こんなに積極的な人は他にいません。問題意識も強いし、目の付け所が違います。私よりずっと優秀なんですよ」
「典子さんがそう言うなんて、なにか怖いみたいだな。僕なんかとても敵(かな)わないか、はっはっはっはっは」
啓太が笑って答えると、京子も苦笑した。このあと、典子の婚約などについて話が弾んだせいか、1時間半ぐらいして店を後にすることになった。彼女たちは新橋に用があるといって立ち去ったが、啓太はしばらく会合の余韻を楽しんでいた。今度は京子にじかに電話をしようと思ったのである。

そんなある日、記者クラブで雑談していると、坂井則夫が啓太のアパート住まいに興味を持ったのか、急に変なことを言い出した。
「啓ちゃんはいいね、田端なら近いし便利だ。こちらは遠くて時間がかかってしょうがないよ。いっそのこと毎朝同じ時刻に家を出るというのはどうかな。そうすりゃ、みんな“平等”ということじゃないか」
「そうはいかないよ、出勤時刻は決まっているじゃないか。則ちゃんも近い方がいいと言うなら、アパートでも探せばいいさ。こっちはアパート代で、毎月5000円を払っているんだぜ。タダで近くにいるんじゃないよ」
坂井が言ったことに、啓太はすぐに反論した。それを聞いていて先輩たちは笑ったが、それから数日して、坂井が参考のために、啓太のアパートに泊まらせてくれと言ってきた。
「ああ、いいよ。狭い部屋だが、今は暑いから布団もそう要らないしね」
そう言って、啓太はこころよく応じた。彼と坂井は以前、沖縄旅行で同じ部屋に泊まったこともあり、なにかと融通がきく間柄だ。
そして9月に入ったある日、坂井が啓太の部屋に一泊し、共に警視庁クラブに出勤したのである。
「どう? アパート暮らしも悪くないだろう。良かったら則ちゃんも探したらいいじゃないか」
啓太はそう言ったが、坂井は特に返事をしなかった。彼はアパート暮らしにそれほど好感は持てなかったようだ。(続く)
 

啓太がゆく・第3部(警視庁の記者時代)(36)

 投稿者:矢嶋武弘  投稿日:2018年11月30日(金)13時00分14秒
  こういう話を聞いても、啓太はあまりピーンと来ない。会社や系列局のことより、身近な仕事の方がどうしても気になるからだ。しかし、テレビ報道の重要性がいっそう増してきたことだけは、草刈の能弁によって分かった感じがしたのである。
それから数日して、27日の火曜日が来た。その日は小雨が降るあいにくの天気だったが、啓太は弾むような気持ちでイタリアン・レストラン「T」へ向かった。午後1時前に店に着き待ち受けていると、やがて木内と白鳥が店に入ってきた。
「やあ、お久しぶりです。白鳥さんもお元気そうですね」
半年ぶりに会う彼女は、どこか穏やかで落ち着いた雰囲気に見える。この前は紺色のスーツ姿だったが、今日は明るいベージュ色の半袖姿だ。半年前は真冬だったが、今は暑い季節だからそうなって当然だ(笑)。
3人は挨拶を交わして席に着くと、軽い昼食と飲み物を注文した。啓太と木内がさっそく雑談を始める。この前と同じように、白鳥京子はもっぱら聞き役だ。啓太は彼女を意識しながら、最近の大学紛争や学生運動などの話を続けた。彼はこんなことしか話題にできない。
しかし、世の中が騒然としてきたせいか、2人とも無関心な素振りには見えない。思いのほか興味深く聞いているようだ。木内がいくつか質問してくるので、啓太は調子よく答えていた。やがて食事を取り、コーヒーや紅茶を飲んでいると、木内が少し改まった様子で話し出した。
「あのう・・・近く話そうと思っていたのですが、ちょうど良い機会なので聞いてください。私、山村邦男さんと婚約しました。年内に結婚する予定です」
「えっ、山村さんと・・・そうか、それはおめでとう!」
ある程度予期していたとはいえ、啓太は少し驚いた。
「それで、今の会社はどうするの? 続けないの?」
「ええ、9月一杯で退職することにします」
「そうすると、筑波の方へ行くということか・・・」
「ええ、山村さんと一緒に農作業をします。例の無農薬農業ですね、ほっほっほっほ」
こう言って、木内典子は恥ずかしそうに笑った。しばらく啓太は無言だったが、どこか安堵する自分を意識した。もう典子のことを思う必要はない。想うとすれば、目の前にいる白鳥京子の方だ!
「そうか、本当におめでとう。『女性の未来社』のことが少し残念だけど・・・でも、良かったね。お幸せに」
京子の方をうかがうと、彼女も穏やかな微笑を浮かべていた。きっと典子のことを祝福しているのだろう。啓太はそう言ってから、思いっきり話題を変えた。
「今年は“スチューデントパワー”が火を吹いた年なんですよ。いいですか、ベトナム反戦運動は世界中に広まっているし、フランスでも5月革命が起きド・ゴール政権は危機に瀕しました。
中国では文化大革命が荒れ狂い、つい最近ではチェコスロバキアで自由を求めるデモが繰り広げられています。ソ連はこれを軍事弾圧していますがね。だから日本でも、新左翼を中心に大学紛争が起きても何らおかしくない。今年はそういう年なんですよ」
「だからって、どういうことですの?」
啓太が得意になってしゃべるので、典子がまぜ返した。京子は少し当惑した顔付きで彼を見つめている。(続く)
 

啓太がゆく・第3部(警視庁の記者時代)(35)

 投稿者:矢嶋武弘  投稿日:2018年11月27日(火)14時02分49秒
  (21) 白鳥京子

夏休みに旅行とは気分転換になる。仕事のことはしばし忘れて、啓太は伊勢から南紀、そして奈良などを回って4泊5日の旅行を楽しんだ。もっぱら民宿や安旅館を利用したが、途中、新婚旅行のカップルを見かけると妙に惹かれる。自分もいずれああなるのかと、どうでもいい想いにふけった。そういう願望が湧いてくるのだろうか。
帰ってから浦和の実家で休んだが、市民プールへ行ったり映画を観たりした。そのうち、啓太は半年前に知った白鳥京子に急に会いたくなった。どうしてそうなるのか? 自分でもよく分からないが、こうと思ったら矢も楯もたまらなくなるのが彼の性分だ。啓太は『女性の未来社』出版に電話をかけることにした。
ただし、白鳥に直接ではなく、彼女を紹介してくれた木内典子を通すのが“筋”である。もちろん、彼は木内とも会うのがベストだと思っていた(彼女を“キューピッド役”として)。 浦和の実家にいると、妙に落ち着いた気分になれる。啓太は『女性の未来社』に電話をかけた。
「もしもし、木内典子さんはいらっしゃいますか・・・」
啓太が自分の名前を告げると、間もなく彼女が電話口に出てきた。
「山本です、久しぶりですね。半年ぶりかな、お元気ですか?」
簡単な挨拶を交わすと、彼は木内と白鳥の2人に会いたいと正直に伝えた。
「京子さんはいま仕事に出ていますよ。私はもちろん大丈夫ですが、彼女の都合を聞いて返事をします。京子さんもきっと喜ぶと思いますよ」
典子は快諾した。彼女の明るい声を聞いて啓太は嬉しくなった。そして、典子からの連絡を待ったのである。
電話をかけて2時間以上たっただろうか、ようやく彼女から返事があった。
「今月(8月)27日の火曜日で、午後は空いていますか?」
「ええ、いいですよ、何も起きなければ大丈夫。場所は・・・」
そう言って、啓太は以前 3人で会った虎ノ門のイタリアン・レストラン「T」を指定し、時間は前回と同じように午後1時過ぎとした。こうして、啓太らは半年ぶりに再会することになったのだ。

夏休みが終わり警視庁クラブに出ると早速、草刈が聞いてきた。
「どうだった? 夏休みは」
「お陰さまでどうも。伊勢や和歌山、奈良などに行ってきましたよ」
「そうか・・・ 坂井もいま夏休みを取っている。大したことが起きなくて良かったな」
草刈はそう言うと、当面の仕事の説明を始めた。成田闘争や東大紛争、それに新左翼の動向などが主な内容だったが、一呼吸置くと、彼の話は会社の報道局のことに移った。
「10月からニュース枠が拡大して、ローカルニュースもどんどん入るようになるぞ。それに、KYODOテレビから新たに10数人が移ってくるというから、報道局はさらに充実し強化される。
また、来年4月から系列のUHFの新局が8つ誕生するそうだ。ますます賑やかになるな」(続く)
 

11月26日(月)

 投稿者:矢嶋武弘  投稿日:2018年11月26日(月)14時22分45秒
  小生の日記は事実をできるだけ正確に書くことにある。
2025年の「大阪万博」開催が決まる。東京五輪の後だから正に歴史は繰り返すだ。
カルロス・ゴーン氏の隠し報酬は80億円とも120億円とも言われる。徹底的な捜査が必要だろう。日産自身の責任に波及しても仕方がない。溜まったウミを出すべきだ。
大相撲九州場所は小結・貴景勝が13勝2敗で初優勝、情けなかったのが関脇の御嶽海と逸ノ城だ。両力士とも負け越しで来場所は降格になる。特に逸ノ城の相撲ぶりはひどかった。
近所のガソリンが1リットル・139円と少し値を下げ安定してきた。
 

啓太がゆく・第3部(警視庁の記者時代)(34)

 投稿者:矢嶋武弘  投稿日:2018年11月24日(土)10時06分32秒
  こうして、その日の英会話レッスンは終わったが、最後に塚本が気になることを言った。
「今日はこれで終わりますが、草刈さん、そのうちFUJIテレビ見学のついでに、外国語学院の女生徒を連れて来ても構いませんか?」
「ええ、それはまあ・・・」
急にそう言われて草刈は言葉を濁したが、啓太は満更でもなかった。隣の坂井の様子をうかがうと、彼も嫌な顔はしていない。忙しい毎日だが“忙中閑あり”で、彼はいろいろな若い女性と会ってみるのも良いと思ったのだ。俺はまだ若いではないか・・・
しかし、仕事の量はますます増えていく。草刈キャップがついに『警備・公安』も担当するようにと啓太に命じた。捜査1課・3課は主に吉川が担当し、何か重要な事件などがあれば彼を手助けするということだ。警備・公安のチーフは先輩の池永に決まった。
学園紛争がこんなに拡大し、成田空港反対闘争などが激しさを増していれば、当然の人員配置だと言えよう。啓太にとってはむしろ好ましい、やりがいのある任務だった。

7月下旬のある日、啓太は警備・公安両部へ取材も兼ねて挨拶回りに行った。大したことはなかったが、右翼や民族派の動静を見ている公安3課で面白い話を聞いた。世の中は過激派や新左翼の話で持ち切りだから、及川3課長はあえて気を引きたいと思ったのだろうか。
「最近、作家の三島由紀夫さんが面白い組織を造ったんですよ。『祖国防衛隊』と言って、これがその写真です」
及川は頼まれもしないのに、何枚もの写真を啓太に見せた。それは三島が隊員を引き連れてどこかの神社に参拝するシーンだった。
「へえ~、三島さんはこんなことをやっているのですか?」
「うん、軍服がなかなか似合ってますね。まるで“おもちゃの兵隊”だ、はっはっはっはっは」
啓太がびっくりして聞くと、及川は愉快そうに笑って答えた。たしかに三島たちの“軍服姿”は凜々しい感じがする。右翼や民族派が新左翼に対して、いろいろやっているんだなと啓太は思った。祖国防衛隊はのちに『楯の会』と名称を変え、やがて大事件を起こすのだが、この時点ではそれは予想もできないことであった。
こうして公安・警備の取材もするうちに、真夏の季節になった。草刈は最近、警視庁の道場でめでたく“剣道初段”に昇進したせいか機嫌が良い。そこである日、啓太は聞いてみた。
「キャップ、夏休みを取ってもいいですか?」
「ああ、いいよ。早く取ろう。そのうち何が起きるか分からないからな」
草刈は意外にあっさりと、啓太の申し入れを認めた。こうなれば早く夏休みを取ろう。啓太は8月中旬に、大した目的はなかったが紀伊半島や関西へ行ってみることにした。(続く)
 

啓太がゆく・第3部(警視庁の記者時代)(33)

 投稿者:矢嶋武弘  投稿日:2018年11月21日(水)06時19分56秒
  「うん、テニスの同好会で知り合ったTOKYOガスの女の子とだよ」
「それはいいな、おめでとう」
啓太がすぐに相槌を打つと、今村が話を続けた。
「実は小出も婚約している子がいるそうだ。あまり話してくれないが」
「えっ、そうか・・・」
今度は啓太が少し意外に思った。二浪して2歳年上の今村に結婚相手ができるのは分かるが、同期の小出誠一までそういう状況だとは予想もしなかった。彼らに比べると自分は遅れているなと思う。 別に早く結婚しようとは思わないが、啓太は今村と小出に差をつけられたように感じた。そして、白鳥京子や末永牧子ら何人かの女性を思い浮かべたのである。
2人はなお雑談を続けたが、そのうち大学当局の会見が始まるというので、啓太は臨時の記者クラブを出てキャンパスの中を見て回った。やはり目につくのは立て看板である。中には「日米安保条約を破棄せよ!」とか、「佐藤反動内閣を打倒せよ!」などといった政治色の強いものもある。なんとなく、不気味な雰囲気に包まれているではないか。

東大のキャンパスを見終わったあと、啓太は警視庁クラブに戻り草刈たちに状況を報告した。
「ふむ、過激派のセクトがだいぶ入ってきたな。こりゃあ、そのうち大変なことになるぞ」
草刈はいかにも心配そうな表情を浮かべたが、すぐに気を取り直してこう言った。
「今日は英会話のレッスンの日じゃないか。さあ、張り切ってやっていこう!」
これにはみんなが苦笑いしたが、情熱家の彼は急に態度を豹変させるようなところがある。部下たちはこれになかなか付いていけない面もあるが、草刈の性格だから仕方がないだろう。
その日は金曜だから、2回目のレッスンの日だ。池永を除く5人は夜 会社に上がった。講師の塚本修(おさむ)は30歳ぐらいの温厚な感じの人で、何かと丁寧に教えてくれる。高校生の時、短期留学でアメリカで学んだことがあるというのだ。
講義が終わりに近づいたころ、彼は用意した小型のレコードプレーヤーに1枚のディスクをセットした。
「これは皆さんも聞いたことがあると思いますが、映画『慕情』のテーマ曲です。私が大好きな曲ですが、良かったらこういうものから英語の発音やセンスに馴染んでいただきたいですね。手前勝手ですが、かけさせてもらいます」
塚本はそう言うと、レコード針をディスクの上に置いた。談話室には他の社員はもういないから、なんの気兼ねもなくレコードが聞ける。聞き慣れたメロディーが流れてきた。
映画は香港を舞台にした女医と新聞記者の悲恋の物語だが、啓太もこの映画が好きで、特に女医に扮したジェニファー・ジョーンズの知的な美しさに惹かれていた。『Love is a many splendored thing』の歌声が談話室に流れる・・・(続く)

参考→ https://www.youtube.com/watch?v=aJ-vJI6jypM&list=PLcQ0rTEWg-ZypnxmRBqQuMUR05L3nyzxr&index=2
 

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